空き家を売ろうと思っても、多くの問題が立ちはだかり円滑に手続きが進められないこともあります。特に相続した空き家の場合、名義変更(登記)や権利関係の整理が不十分であることが原因となって売却手続きが長引いたり、思わぬトラブルに発展したりすることも少なくありません。
そこで「空き家を売りたい」と考えている方、あるいは「空き家を相続することになりそうだ」という方に向けて、注意しておきたいポイントを紹介していきます。
空き家を売る前に確認すべき事項
空き家を売却する前には、その土地や建物の状況をきちんと把握することが大切です。
誰が所有者として登記されているのか、土地の境界ははっきりしているのかなどを確認しておかないと売買に際してトラブルが起きるリスクが高まります。
そこでまずは法務局で「登記事項証明書」を取り寄せて、現在どのように登録されているのかをチェックしましょう。所有者と実際の所有者が同じかどうか、「抵当権」と呼ばれる銀行などの担保が付いていないか、差し押さえなどの制限がかかっていないかなど、権利関係を細かく調べていきます。
土地の境界に関しては地積測量図や公図などの資料を取り寄せたうえで現地での調査を行うなどして確認を進めますが、判断が難しいため測量士や土地家屋調査士などに見てもらう必要があるでしょう。
※複数の人が共有している空き家を売る場合、共有者全員の同意を得なければならない。一部の共有者が反対したり連絡が取れなかったりすると、売却は難しい。
※住宅ローンの担保として抵当権が設定されていることがある。ローンの返済状況を確認し、必要に応じて抵当権を消す手続き(抹消手続き)を行う。
※土地の境界があいまいな場合は、隣の土地の所有者と境界を確定する作業も必要になる。
相続した空き家に関する注意点
売却する物件が親や親族から相続した空き家である場合、注意が必要です。
相続した後の名義変更(相続登記)がされていないケースや相続人が複数いるケースでは、相続開始から売却までの道のりが長く複雑になりがちです。
そこで空き家を売るためにも、まずは相続人全員を特定し、全員の同意を得たうえで遺産の分け方を決める話し合い(遺産分割協議)を行い、相続登記を完了させましょう。
※相続人の中に子どもや認知症などで判断能力が不十分な方がいる場合、成年後見人や特別代理人をつけるなど、別の手続きが必要になることもある。
相続登記をせずに放置されている空き家も少なくないことから、法改正により2024年から相続登記が義務となっています。相続登記をしないまま長い時間が経つと、相続人を特定するのが難しくなったり、共有者が増えて管理や処分が難しくなってしまったりすることが多いためです。そこでもし空き家を相続することになれば、相続登記も忘れないように気を付けましょう。
相続人が多い場合の対処
相続が何世代にもわたっている場合や相続人がたくさんいる場合は、問題がさらに複雑化します。
相続人全員の同意を得るのが難しくなるだけでなく、行方がわからない相続人や連絡が取れない相続人も出てくる可能性が高まるためです。
このようなケースでは特別な法的手続きが必要になることがあります。
たとえば行方不明の相続人がいるとき、「不在者財産管理人※」という者を家庭裁判所に申し立てて選任してもらいます。また、相続人の中に相続を放棄した人がいる場合は、その証明書を取得して次の順番の相続人を特定する必要があります。そして相続関係が複雑な場合は「法定相続情報証明制度※」という制度を利用するなど、相続関係を整理する手段も積極的に活用すると良いでしょう。手続きへの対応が難しいときは無理にご自身で対応せず、相続を取り扱っている司法書士や行政書士などの専門家に頼ることをおすすめします。
※不在者財産管理人について |
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不在者財産管理人は、不在者(住所や居所を去って帰来の見込みがない者)が財産の管理者を定めていない場合において、利害関係人等の申立てを受け家庭裁判所が選任する財産管理人のこと。 家庭裁判所は不在者の財産管理のために必要な処分ができると法定されており、その一環で選任する。 |
※法定相続情報証明制度について |
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相続関係を一覧にした「法定相続情報一覧図」につき、登記官が認証文を付して、相続関係の証明書類を作る制度。相続関係を証明する戸籍書類一式の代わりとして活用できるようになり、銀行や登記所などで行う相続手続きがいくつもある場合でも効率的に進められるようになる。 |
遺産分割協議の進め方
空き家を含む遺産の分け方に関しては、相続人全員で話し合い、その結果について全員の合意を得なければなりません。そして実務上、その合意内容を「遺産分割協議書」という文書にまとめる必要があります。
協議書には不動産の住所や地番など物件を特定する情報を正確に書き、各相続人の実印を押したうえで印鑑証明書を添えれば、協議内容を証明する書類として各種相続手続きでも使いやすくなるでしょう。
なお、話し合いがまとまらない場合は裁判所での調停や審判などの法的手続きを検討することになりますが、時間と費用がかかるため、できるだけ相続人同士で話し合いによる解決を目指すことが望ましいです。
また、特定の相続人が空き家を取得してほかの相続人にお金を支払う「代償分割」や、空き家を売ってその売却金を分ける「換価分割」など、さまざまなパターンで分割方法も検討すると良いでしょう。
相続税と譲渡所得税の課税
空き家を相続した場合にも「相続税」が課税されます。その物件を利用するかどうか、売却するかどうかなど関係なく、その他遺産と同様に相続税の課税対象となります。
※ただし、遺産総額が基礎控除額以下であるときは申告義務や納付すべき税額もなくなる。
そのため当該物件について税理士にも相談しながら相続税評価額を調べ、相続税の申告が必要かどうか、納付すべき相続税があるのかどうかを確認しておきましょう。
また、売却益を得たときには「譲渡所得税」にも注意してください。
譲渡所得税は、譲渡価額から取得費や譲渡費用を差し引いた利益(課税譲渡所得)に対して課税される税金です。納めた相続税があるときはそれを取得費の一部に含めることができますが、課税譲渡所得が残ったときは納付義務が生じます。
ただ、相続により取得した空き家を売却するケースでは特例が適用できる可能性もありますので、その点も留意しておきましょう。一定の要件を満たせば、最大、譲渡所得から3,000万円を差し引くことができます。
空き家の相続・売却をするときは専門家に相談
空き家を売却するとき、特に相続が絡む場合は、法律の専門知識が必要になることが多いです。トラブルが発生するリスクも高いため、専門家に相談することをおすすめします。早い段階で依頼することができれば、潜在的な問題を事前に把握し、より効果的・効率的な解決を目指すことができるでしょう。
湘南なぎさ合同事務所(茅ヶ崎市、藤沢市、平塚市、鎌倉市)|空き家を売るときの確認事項と相続に関する注意点について