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空家問題の実情と所有者が放置することのリスク

日本では空家問題が年々深刻化しています。「誰も使っていない家がただ増えるだけでは?」と思うかもしれませんが、空家が増え、その劣化が進んでくると、周囲にさまざまな悪影響を及ぼし始めます。

現状、空家にはどのようなリスクが潜んでいるのでしょうか。当記事では空家問題の実情を紹介しつつ、空家による社会的なリスクや所有者に対するリスクについて解説しております。

空家問題の実情

空家等対策の推進に関する特別措置法では

“建築物又はこれに附属する工作物であって居住その他の使用がなされていないことが常態であるもの及びその敷地”

を「空家等」と定義しています。

引用:空家等対策の推進に関する特別措置法
(https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=426AC1000000127)

そのため、住まいとして、あるいはその他の用途で使われていない状態にある建物は「空家」ということができます。

そして「住宅・土地統計調査(総務省)」によると、空家の総数はここ20年でおよそ1.5倍にまで増加していることがわかっています。かつて600万戸弱であった空家も、今では900万戸近くにまで増加しているのです。

さらに、賃貸や売却などの予定がなく長期に渡り不在となっている住宅などは約350万戸で、ここ20年で2倍近くにまで増加しています。

なお、腐朽や破損のある住宅は100万戸を超えていますが、簡単な手入れで有効活用できる物件も少なくはありません。

空家を相続するケースが多い

国土交通省が示すデータによると、空家を取得する経緯としてもっとも割合が高いのが「相続」であることがわかっています。

《 空家を取得した経緯の割合 》

  • 相続:54.6%
  • 中古住宅購入:14.0%
  • 新築・建替:18.8%
  • 新築購入:5.3%
  • 贈与:3.3%
  • その他(不明・不詳):4.0%

※出典:国土交通省(令和元年空き家所有者実態調査)
また、空家を所有する世帯において家計を支えているのは主に高齢者であることもわかっています(65歳以上が60%以上を占めている)。

法整備による対応

空家問題に対処するには各所有者によるアクションが欠かせませんが、所有者に任せるだけだとなかなか進展はしません。

実際、取得した空家に対して有効活用しようという意識を持っている方はそう多くなく、そのまま「空家にしておく」と考えている方も3割ほどいることがわかっています。

賃貸や売却を考えている方もいますが、そのうちの約4割は賃貸・売却に向けた取り組みに着手をしていません。取り壊し等を考えている方に関しても約3割は費用の用意を始めておらず、すぐに本格的な行動を起こせる方ばかりではないことがわかります。

そこで空家問題の解消に向けては法整備が大きな意味を持ちます。後述するように空家は防災・衛生・景観等の観点から周囲に悪影響を及ぼし得る存在ですので、法令により空家対策を進める必要性があるのです。

こうした背景を受け、「空家等対策の推進に関する特別措置法」が制定されました。同法により、空家等に対して市町村が情報収集をしたり適切な管理の促進・援助をしたり、その他跡地の活用や財政上・税制上の措置を採れるようにルールが整備されています。

さらに特定空家等※を定義して、次の措置を採れるようにもしています。

  • 特定空家等には、除却・修繕・立木竹の伐採等の措置の助言、指導、勧告、命令ができる。
  • 一定の要件を満たせば行政代執行の方法によって強制執行も可能。

※「特定空家等」とは、以下の空家等をいう。
① 倒壊など著しい危険を伴う
② 著しく衛生上有害となるおそれがある
③ 著しく景観を損なっている
④ 周辺環境の保全を図るため放置が不適切である

同法の影響もあり、日本各地の市区町村で空家対策は進められています。よくある取組例は「移住・定住の促進」「二地域居住の促進」です。その他さまざまな施策により各地で空家等の利活用が推進されていますが、空家対策に取り組む部署のマンパワー不足や専門知識の不足が大きな課題にもなっているようです。

空家対策に係る業務をアウトソーシングすることで対処している事例もありますが、未だに大きな社会問題として残っているのが現状です。

空家を放置することのリスク

空家のまま放置することには、次のように社会的なリスクがあります。

  • 景観の悪化
  • 倒壊・外壁落下の危険性が高まる
  • 犯罪の発生を誘発する
  • ゴミの不法投棄が起こりやすい
  • 火災の発生を誘発する
  • 衛生の悪化

詳細は以下で説明していきます。

景観の悪化

空家は景観を悪化させる要因となります。

空家として放置することで庭木や雑草は伸び放題になり、外壁の塗装は時間の経過とともに剥がれ落ち、ひび割れが生じます。そうなると美しい街並みも維持するのが難しくなってしまいます。

これらの劣化は単に見た目が悪くなるだけでなく、地域のイメージダウンにもつながるでしょう。特に観光地や住宅地だと、地域の価値を大きく損なうという問題につながります。地域活性化を妨げ、住民の生活満足度を下げるなど、さまざまな問題を引き起こすのです。

倒壊・外壁落下の危険性が高まる

空家の老朽化は、倒壊や外壁落下の危険性を高めます。

定期的なメンテナンスが行われないことで建物は徐々に弱くなり、地震や台風などの自然災害に対しても脆くなってしまいます。その結果、屋根瓦や外壁材が落下し、通行人や近くの住民に被害が及ぶリスクも高まります。

特に、木造住宅が多い日本だとシロアリによる被害は深刻です。放置された空家はシロアリの温床となり、倒壊の危険性をさらに高めるでしょう。

犯罪の発生を誘発する

空家は、犯罪の温床となる可能性も持ちます。

人通りの少ない場所にある空家は、人目につきにくく、犯罪者が侵入しやすい環境です。壊れた窓や扉は、不法侵入を容易にし、空家を隠れ家や犯罪の拠点として利用されるリスクを高めてしまうのです。

その結果、周辺地域の治安を悪化させてしまい、空き巣や窃盗のほか放火や薬物取引などより深刻な犯罪が発生する可能性も出てきます。

ゴミの不法投棄が起こりやすい

空家は、ゴミの不法投棄場所として利用されやすいです。

明らかに管理者が不在で人目にもつきにくいと、不法投棄を行う格好の場所となってしまうのです。ゴミが不法投棄されると景観を損なうだけでなく、さらに悪臭や害虫の発生源にもなってしまい周辺環境を悪化させる要因となります。

また、不法投棄されたゴミを後で処理しようとしても多額の費用がかかるケースもありますのでご注意ください。

火災の発生を誘発する

空家による火災リスクも無視はできません。

電気設備やガス設備が老朽化することで火災が起こりやすくなりますし、不法侵入者による放火、周辺からのもらい火など、さまざまな要因で火災は起こり得ます。

空家からの出火は空家を消失させるだけでなく、周囲の住宅に燃え広がって大規模な火災に発展させる可能性も秘めています。特に密集した住宅地だと被害が拡大しやすく、住民の命に関わることはもちろん、その後多額の賠償責任を負う事態になりかねません。

衛生の悪化

空家は不衛生な状態になりやすいです。

適切な清掃が行われないことで害虫・害獣が繁殖しやすくなり、蚊やハエ、ねずみ、ゴキブリなどが周辺環境を悪化させてしまうかもしれません。これらの生物はウイルスを媒介することもありますので注意が必要です。

また、腐敗したゴミや動物の死骸が原因となり悪臭を放つこともあります。特に夏場は悪臭が強くなり、近隣の住民に大きなストレスを与える可能性があります。

空家の放置は所有者の負担にもなる

周辺環境への悪影響など空家の放置には社会的なリスクがありますが、所有者個人に負担がかかるケースもあります。

例えば、「後で売りたくなっても買い手がより見つかりにくい」という問題が挙げられます。空家はただでさえ買い手・借り手がつきにくいところ、長く放置して状態が悪化しているとより傷みが進行してしまいます。設備や建具もより古くなり、資産価値は大きく下がってしまうでしょう。

上でも少し触れましたが「多額の損害賠償責任を負う可能性がある」というリスクもあります。空家の管理不全が原因で他人に被害が及ぶと損害賠償請求をされてしまうかもしれません。

また、空家等対策の推進に関する特別措置法により「固定資産税等の軽減措置(住宅用地特例)が受けられなくなる」というリスクも出てきます。2023年12月から施行された改正法で管理不全空家も指導・勧告の対象となりましたので注意が必要です。
※同法のいう「特定空家」はそのまま放置すると倒壊等のおそれがある状態の空家をいい、「管理不全空家」は窓や壁が破損しているなど管理が不十分な状態の空家を指す。特定空家ほど危険が顕在化していない段階であるが、法改正によってこちらも指導・勧告の対象となった。

適切な管理ができていない場合、まずは行政から“指導”を受けることになるでしょう。これに従えば問題ありませんが、従わないときは“勧告”を受けます。この勧告を受けると固定資産税等の軽減措置が受けられなくなってしまいます。

こうしたさまざまなリスクを回避するためには適切な管理が欠かせません。賃貸に出したり売却をしたりするのも有効です。もし利活用や管理方法、手続についてお悩みなら専門家を頼るようにしましょう。

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