相続が開始され、相続人が複数人いる場合には「遺産分割協議」を行うことになるでしょう。その後の資産の運用、親族間の人間関係などに大きく影響を与える手続ですので、遺産分割協議とは何かをよく理解した上で着手することが大切です。
また、この協議に関連して「遺産分割協議書」の作成も忘れないようにしなければなりません。協議書の作成に関しても以下で解説していきます。
遺産分割協議とは
民法上、共同相続の効力として「相続人が複数人いるときの相続財産はその共有に属し、各々その相続分に応じた権利義務を受け継ぐ」旨規定されています。
そのため別途手続を行うことなく、財産に関する権利などは相続人に渡ることとなります。ただその場合「共有」という形で受け継ぐことになってしまいますので、「A財産についてはXさんに、B財産についてはYさんに、C財産についてはZさんに」といった形で分けたいのであれば相続人間で話し合いをしなければなりません。この話し合いを遺産分割協議と呼びます。
遺産分割協議が必要なケース
前述の通り、遺産分割協議をしないと相続財産が受け取れないわけではありません。しかしその割合は法定相続分に従うこととなりますので、相続人間で好きに分けたいと思うのであれば話し合って財産を分配していなければなりません。
よって「法定相続分に従った分割をしないとき」に遺産分割協議が必要になると言えます。
また、不動産や一部の財産に関しては名義変更の手続が必要になるものもあります。その手続を行う際、遺産分割協議書が求められることも多いです。この書類は、遺産分割協議を行っていることを前提に作成されますので、「名義変更が必要な財産があるとき」にも遺産分割協議は必要になると言えるでしょう。
なお、遺産分割協議書がないと絶対に名義変更ができないわけではありません。相続人全員の署名により同意の意思を記した書面をもって遺産分割協議書の代わりとすることも可能です。しかし各種手続にあたり毎度署名を集めるのは大変ですし、遺産分割協議書を作成しておいたほうが簡便と言えます。
遺産分割協議書とは
遺産分割協議書は、遺産分割協議にてみんなで話し合った内容をまとめた文書のことです。その場でみんなが同意を示したとしても、後から「そのような事実はない」と主張されてしまうと大変です。そこで一度取り決めた内容を覆されないように、証拠として使えるように作成するのです。
また、分割内容を正確に残すことができるという意味でも役立ちます。多様な財産につき、誰にどのように分けたのか、記録として残すことができます。
遺産分割協議書の作成方法
遺産分割協議書が作成されるまでには以下の手続を経ることになります。
- 遺言書の確認
- 自宅や銀行の貸金庫、顧問契約をしている専門家、公証役場などを探る
- 相続人を調べる
- 被相続人の出生~死亡までの戸籍書類を集める(戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍謄本)
- 相続人全員について現在の戸籍謄本を集める
- これらの資料から相続関係説明図を作成する
- 相続財産を調べる
- 預貯金通帳や不動産登記簿謄本、借用書、有価証券、車検証、保険証券など書類を調べてい
- これらの資料から遺産目録を作成する
- 遺産分割協議を行う
- 相続を放棄する者がいないかの確認
- 未成年の子どもと親がいずれも相続人である場合には、家庭裁判所にて特別代理人の選任の申立を行う
- 認知症の方など判断能力を欠いた相続人がいる場合には、家庭裁判所に選任された成年後見人が必要
また、戸籍等の書類を参考にして、被相続人および相続人の情報につき漏れのないように、そして表示にずれがないように注意して記載していきましょう。
分割対象となる相続財産の特定も重要です。預金であれば金融機関名や支店名、預金の種類、口座番号を記載していきます。自動車なら車検証の表示を参考に登録番号や車台番号等を、不動産なら登記簿謄本を参考に記載していきます。
遺産分割協議公正証書の作成
遺産分割協議書を公正証書としておくとより安全かつ便利です。例えばせっかく文書としてまとめたものの、文言に解釈の疑義が生じてしまうとトラブルを引き起こしかねません。また不動産を代償分割した場合のように後日金銭の支払いが予定されているときには強制執行ができると便利です。支払いの履行がなされない場合の備えとして機能します。
また、公正証書は原本が公証役場に保管されるため紛失・盗難・改ざんのリスクをなくすことができます。
より確実で安全な遺産分割をしたいという方は遺産分割協議公正証書を作成すると良いです。
遺産分割協議書作成で注意すべきこと
遺産分割協議および協議書の作成にあたっては、期限にも留意しましょう。特に遺産に不動産が含まれている場合、遺産総額が基礎控除額を超える可能性が高くなりますので、相続税の申告義務が課されやすいです。この申告は「相続開始を知ってから10ヶ月以内」と法定されていますので、それまでに協議を済ませ、遺産分割協議書も作成しておかなければなりません。
また別の観点となりますが、遺産分割協議書の改ざんや差し替えといったリスクを防ぐため、契印や割印なども押すようにも注意しましょう。部数が複数に及ぶ、複数ページを作成した場合、1つの書面のみに相続人の署名や押印があったとしても、当該書面やページ以外につき容易に書き換えることができてしまいます。
そのため契約書等の重要書類を作成するときと同様契印や割印といった処置も施しておくことが望ましいです。
「自分で作成するのが難しい」という場合には専門家に依頼して作成してもらうことも大切です。書面の作成のみならず、協議進行の方法、適切な遺産分割の手法などのアドバイスも受けることができます。
湘南なぎさ合同事務所(茅ヶ崎市、藤沢市、平塚市、鎌倉市)|遺産分割協議と遺産分割協議書の作成について知っておきたいこと