本人の意思の尊重や、判断能力が不十分になった方の財産・権利の保護を目的とした後見制度が導入されて20年近くが経ちました。
しかし、法定後見が抱えている課題は多々あり、法定後見制度のデメリットを理解しないまま利用すると、後でトラブルに巻き込まれてしまいます。
以下では、専門職として、市民の方の成年後見人に就任して業務を行っている立場から、法定後見が抱えている課題・問題点をいくつか指摘していきます。
■問題点① 利用しづらい
後見制度を利用している方は、平成29年(2017年)12月末日時点で、約21万人(任意後見も含む)です(最高裁判所事務総局家庭局『成年後見関係事件の概況―平成29年1月~12月-』)。
これは、判断能力が不十分とみられる人の2%程度にすぎず、後見制度があまり利用されていないことが分かります。
あまり利用されていない理由の1つは、後見開始の際の申立て手続きが煩雑で、個人で行うには難易度が高いことが挙げられます。
また、家庭裁判所に後見開始の申立てができるのは、原則として本人・配偶者・四親等内の親族に限られるため、身寄りがいない場合や身寄りがいても疎遠な関係にある場合は市区町村長申立てとなり、よりハードルが高くなりますので、後見制度が利用される可能性が少なくなるでしょう。
■問題点② 親族が後見人に選任されにくくなっている
近年の傾向として、家庭裁判所に後見開始の申立てを行っても、親族が後見人に選任されることが少なくなっています。
平成29年において、親族後見人が選任された割合は、全体の約26.2%となっており、70%以上が親族以外の第三者(例えば、司法書士や弁護士など)が後見人に選任されています(同上)。
この背景にあるのは、
・単身世帯や身寄りのない高齢者が増加したことにより、後見人にふさわしい適当な親族を見つけるのが難しい
・後述するように、親族後見人の横領などの不正行為が多いため、親族後見人を選任することに消極的になっている
などの事情があります。
しかし、第三者を後見人に選任することで、毎月数万円の報酬を支払わなければならず、本人(判断能力が不十分になった方)の財産が減少するという事態が起こります。
また、司法書士や弁護士などの専門職の数は限られているため、これからより進んでいく高齢社会の下でも対応できるかどうかは未知数といえます。
■問題点③ 後見人の不祥事への対応と防止策の難しさ
最高裁判所の調査によれば、2011年から2017年の期間で、横領などの不正行為による被害額は少なくとも253億円に上るとされています。
その多くは、親族後見人によるもので、被害額全体の約95%を占めます。しかし、親族後見人の場合は、横領かどうかの判断がつきにくく、その防止策も立てにくいといえます。
そのため、前述の通り、近年は第三者後見人が選任されることが多くなっている原因となっていますが、第三者後見人の場合もデメリットがあることは、先に述べたとおりです。
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