遺言書を作成することで、生前の思いを伝えることができたりご自身の持つ財産の行方を指定したりすることができます。誤字脱字や不備のある遺言書を作成しても、遺言者の意思さえ伝われば相続人らがその意図を汲んで遺産分割協議をしてくれるかもしれません。しかし法律上の要件を満たした形で作成をしなければ、指定通りの遺産分割が実現されるとは限りません。不備のある遺言書だと、遺言の内容に反対する相続人に対し強制力を働かせることができないからです。
そこで、正しい遺言書の書き方についての理解が必要です。以下で基本的な遺言書作成の流れを説明するとともに、法律上の要件についても言及していきます。
ステップ1:財産を整理して財産リストを作成する
いきなり遺言書の執筆に着手すべきではありません。準備として、まずは自らの財産を整理して財産リストの作成を進めていきましょう。
預金はいくらあるのか、どこにあるのか、所有している家屋や土地などの評価額はいくらか、といったことをすべて調査していくのです。
そこで、預貯金であれば通帳を確認、不動産であれば固定資産税納税通知書を確認、株式であれば証券会社から届く取引残高報告書を確認しましょう。
予想外の財産が出てくると相続人間でトラブルが生じることもあります。そこで、過去に貸したお金がないかどうか、逆に借りたままのお金がないかどうかを再確認していきましょう。
ステップ2:法定相続人・相続割合・遺留分を把握する
財産の整理を進めると同時に、法定相続人とその法定相続分、さらに遺留分に関しても把握していきましょう。
配偶者や子などの法定相続人は、遺言書がなくても基本的には相続人としての立場を得ます。ただし法定相続分に従わない割合で財産を渡したい場合や、特定の財産を渡したい場合には遺言書で指定しておきましょう。
なお、被相続人の兄弟姉妹を除く一定の相続人には遺留分として最低限の財産保障がなされています。そのため配偶者や子がいるにもかかわらず「その他の人物に一切の財産を渡す」旨の遺言を残したとしても、その通りに執行できるとは限りません。
遺留分権利者が「遺留分侵害額請求」を行うことで、最低限の取得割合まで回収することができるのです。そのため誰にどれほどの遺留分が認められているのかも把握しておくことが大切です。
ステップ3:誰に何をどれくらいの割合であげるのかを決める
ここまでで下準備が終わりとなりますので、続いて遺言内容を考えていきましょう。誰に、何を、どれだけ残すのかを決定していきます。
ここで大切なのは、金額の指定をするのではなく割合で指定をするということです。遺言書作成時点から財産状況が変動することもあるからです。そこで「預貯金は、妻と長男、長女にそれぞれ1,000万円ずつ相続させる」などと指定するのではなく、「預貯金は、妻と長男、長女にそれぞれ等しい割合で相続させる」といった指定をしたほうが無難です。
なお、遺言内容を考えるのは簡単ではなく法律の専門的知見も欠かすことができませんので、専門家への相談もしておくことをおすすめします。
ステップ4:遺言の形式を決める
遺言の内容に差が出るわけではありませんが、遺言書作成にかかる手間やコスト、執行の確実性などの観点から、遺言の形式も検討する必要があります。
「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3つから選択することができます。
自筆証書遺言について
自筆証書遺言はもっとも一般的な形式です。
遺言者本人が全文を自書しなければならず、パソコンを使った遺言書作成は認められません。
自筆証書遺言のメリット・デメリットは下表の通りです。
メリット | 遺言書を作成したことを秘密にできる |
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無料で作成できる | |
デメリット | 相続開始後、相続人が家庭裁判所に遺言書を持っていき、検認の手続を行わなければならない |
遺言書が発見されないリスク、遺言書が破棄されるリスクがある |
公正証書遺言について
公正証書遺言は、直接の執筆は公証人にしてもらう形式の遺言です。
さらに証人も作成に立ち会うこととなり、不備等が生じにくいことから確実性が高いという特徴を持ちます。
基本的には公証人役場に出向いて作成することになりますが、費用を負担すれば出張を依頼して自宅や病院などで作成することも可能です。本人が書き記す必要がないことから、文字が書けない状態であっても遺言書の作成が可能となります。
メリット | 遺言書の開封時に検認が不要で、遺言執行の手間や費用に関する相続人の負担が小さくて済む |
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公証人が形式的な不備をチェックしてくれるため、確実な遺言執行が実現される | |
自筆でなくても良い | |
デメリット | 公証人手数料等の費用がかかる ※手数料の額は相続財産の額などに応じて変わる |
自分1人で作成ができず、公証人と少なくとも2人の証人には遺言内容が知られてしまう |
秘密証書遺言について
秘密証書遺言は、遺言の内容につき秘密を保ちつつ、遺言書の存在を公証人に確認してもらう形式の遺言です。そのため「秘密」という名称が付されているものの、遺言内容も遺言書の存在も秘密にしたいときには自筆証書遺言のほうが適しています。あくまで公正証書遺言に比べると秘密にできる部分が大きいという意味に過ぎません。
作成の手続は公正証書遺言と同様ですが、公証人は中身の確認をしないため、自筆証書遺言同様無効になるリスクは排除することができません。
メリット | 遺言の内容については自分だけの秘密にできる |
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デメリット | 遺言書を作成したこと自体は公証人と証人に知られる |
検認の手続は必要 | |
費用がかかる |
ステップ5:遺言書を作成する
遺言の形式も決まれば、実際に遺言書の作成に取りかかりましょう。
作成方法は選択した形式によって異なります。
自筆証書遺言の場合
自筆証書遺言による場合、まずは自書するための道具を用意しなければなりません。用紙や筆記具に指定はありませんが、長期的に保管することを考慮して、耐久性のある用紙、簡単に消えることのないボールペンを使用するようにしましょう。
また書き換えなどが容易にできてしまってはいけませんので、鉛筆やシャーペン、こすって消すことのできるボールペンなどは使用を避けるべきです。押印も必要ですが、シャチハタではなく実印を使ったほうが安全です。
日付や氏名欄も忘れず自書するなど、細かなチェックポイントがありますが、不安がある方は専門家によるチェックもしてもらいましょう。遺言書のちょっとしたミスがトラブルに発展し、親族間の関係性悪化に繋がる可能性もあります。
作成した遺言書の保管に関しても同様です。相続人の誰かが改ざんする可能性がありますし、そのような行為をしなかったとしても一部の相続人のみが内容や保管場所を知っている状況だと他の相続人から疑いをかけられる可能性があります。そのため保管場所については慎重な検討を要します。
なお、近年は「自筆証書遺言保管制度」が整備されています。費用はかかりますが、安全に自筆証書遺言を保管してもらうことができますし、同制度の利用も検討すると良いでしょう。
公正証書遺言の作成
公正証書遺言を作成するにあたっては、以下の書類を用意した上で公証役場にアポを取りましょう。
- 本人の戸籍謄本
- 本人の住民票
- 本人の印鑑証明書
- 登記事項証明書
いきなり公証役場に行って即日作成できるというものではありません。公証人との事前の打ち合わせが必要です。打ち合わせでは相続人に関すること、遺言の内容、証人の準備に関すること、そして遺言書作成の日時などを話し合います。
基本的に証人は遺言者が用意します。ただ、誰でも証人になれるわけではないため留意しましょう。
遺言内容につき利害関係を有する人物は証人になれませんし、家族以外で信頼できる人を探さなくてはなりません。ご自身で証人を2人用意するのが難しい場合には、公証人に頼んで手配してもらうこともできます。有料となりますが、準備にかかる負担を軽減することができます。なお、証人は必ずしも身近な人物である必要はなく、弁護士や司法書士などの専門家に依頼することもできます。
作成の当日、筆記は公証人が行い、その内容を本人らがチェックします。問題がなければ署名押印をして完了です。作成された遺言書の原本はそのまま公証役場で保管され、本人は正本と謄本を受け取ります。
秘密証書遺言の作成
秘密証書遺言は自筆証書遺言と同じく自分で本文を作成することになるのですが、手書きは要件とされていません。そのためパソコンで作成したり代筆してもらったりしても有効な遺言書として作成可能です。
本文を記載できれば、遺言者の署名押印を付して封筒に入れます。その際、遺言書に押印した印鑑と同じもので封筒にも押印しましょう。同じ印鑑を使うのがポイントで、ここにミスがあると遺言書が無効になってしまいますので要注意です。
その後は公正証書遺言と同じく公証人と2人以上の証人とともに作業を完了させます。遺言書を提出し、公証人が封筒に日付等を記載。そして全員で封筒に記名押印して終了です。
遺言書の作成はなかなか大変な作業です。ただ書けば良いというものではなく、財産や相続人、遺留分の調査などもしなければなりません。不備があるとすべて無効になってしまいますし、有効な遺言書を作成できたとしても遺言内容に問題があると相続人間のトラブルが起こり得ます。こうした種々の問題を起こさないためには遺言書作成のプロへの相談が欠かせません。
湘南なぎさ合同事務所(茅ヶ崎市、藤沢市、平塚市、鎌倉市)|遺言書作成の流れについて~遺言書の種類別に解説~