遺言書にはいくつか種類があり、その代表格が「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の2つです。前者は遺言者が1人で作成できる手軽なタイプといえますが、その分遺言書として効力を発揮できない危険も含んでいます。後者は役所で手続を行う必要があるなど手間のかかるタイプですが、他の遺言書にはない効力が望めます。
公正証書遺言には具体的にどのような効力が期待されるのか、この記事で紹介していきます。
公正証書遺言とは
公正証書遺言とは、“公正証書として作成された遺言書”のことです。
公証役場にて、公証人に作成をしてもらう遺言書です。公証人に作成をしてもらうといっても、内容まで決められるわけではありません。遺言者が遺言内容を口授し、その内容に従って公証人が作成するのです。
ただ、直接の作成者が公証人であることから、当該書面は「公文書」として作成されることになります。公文書としての性格を持つため、安全面で優れた遺言書のタイプといえるでしょう。
遺言書作成に関して安心感を得ることができ、実際、公正証書遺言として作成される例も少なくありません。日本公証人連合会が公表しているデータによれば、年間10万件ほどの作成件数があると示されています。
参照:日本公証人連合会「令和3年の遺言公正証書の作成件数について」
公正証書遺言の効力
公正証書遺言の効力についてですが、遺言書の一種であることに変わりはないため、遺言として残せる内容に差が出るわけではありません。公正証書遺言だけが実行可能な遺言内容などはないということです。
そこで、自筆証書遺言であろうと公正証書遺言であろうと、「相続分の指定」や「相続人以外に対する遺贈」「子の認知」「遺言執行者の指定」といった行為は変わらず行うことができます。
ただ以下の内容に関しては、公正証書遺言だからこそ望める実際上の効力であるといえるでしょう。
方式の不備が起こりにくい
遺言書は、法律で規定された方式に従って作成されなければ、法的な拘束力が生じません。
自筆証書遺言も公正証書遺言も、民法に基本的な作成方法が定められているのですが、これに沿っていない場合、遺言書の無効を訴えかける人物がいると遺言書通りに執行することができません。
ただ、公正証書遺言の場合は公証人が作成に携わります。
公証人は法律のプロであって公正証書作成のプロでもあります。そのため一般の方が遺言書を作成する場合に比べて不備は出にくいです。方式の不備が問題となって無効になるリスクはほぼないと考えられます。
紛失・改ざんのリスクが小さくなる
自筆証書遺言の問題点は、“作成した遺言書の保管”にもあります。
近年設けられた「自筆証書遺言保管制度」を利用すれば法務局に安全に保管してもらうことができますが、別途その手続を申し込まない限り、遺言者自ら自己責任で保管しないといけません。
そうすると相続開始までに紛失や改ざんの危険に晒され続けることとなります。保管制度をすぐに利用することでそのリスクを最小限に留めることはできますが、作成から保管までに期間が空いてしまうと、リスクが生じてしまいます。
一方、公正証書遺言は公文書ですので、作成後もシームレスに公証役場で保管がしてもらえます。悪意ある第三者の介入を受ける間がなく、紛失・改ざんのリスクをほぼゼロにすることが可能です。
相続開始に備えて、公証役場に遺言書を保管していると相続人に伝えておけば、すぐに遺言書を見つけてもらうこともできるでしょう。自筆証書遺言を自宅で厳重に保管している場合、改ざん等を防ぐために誰にも見つからないような場所に置いてあると、そのまま見つからずに相続手続が開始されてしまうリスクも生まれます。
公証役場から公正証書遺言の存在につき通知がいくわけではありませんが、公正証書遺言の有無を調べるシステムが設けられていますので、公正証書遺言であれば見つからないリスクも相当に小さくなります。
相続開始後の検認が必要ない
相続開始後、自筆証書遺言は家庭裁判所にて「検認」を受けなければなりません。
しかし公正証書遺言ではその必要がありません。
そもそも検認は、遺言書の現状を確認して、以後の改ざん等を防ぐための手続です。公文書として公証役場に保管されている遺言書にはもとよりそのリスクがないため、検認も不要とされています。
各種手続で忙しい相続人にとって検認が不要になるのは大きなメリットです。
公正証書遺言が無効になるケース
公正証書遺言が無効になることはほぼありませんが、起こり得ないわけではありません。
例えば以下のケースでは公正証書遺言でも無効になってしまいます。
遺言者に遺言能力がなかった
遺言者には、「遺言能力」が備わっていなければなりません。
遺言能力とは、「遺言内容を理解し、判断できる能力」のことです。
遺言書に記載しようとしている内容について、自ら意味が分かっていない場合には作成できません。その能力の有無に関しては公証人が判断します。作成の場で、遺言能力がないと評価されると作成はできず、遺言能力がないことを看過して作成された遺言書は無効となります。
なお、15歳未満の者については、民法で一律に遺言能力がないものとして取り扱われています。
遺言者が詐欺や脅迫を受けていた
詐欺や脅迫を受けて遺言書を作成した場合など、遺言者の真意に基づかない遺言内容であるときは、その遺言書は無効になります。
ただ、作成の背景に関しては公証人が直接関与していないことから、公証人が見抜くことは難しいです。
そこで無効であることを、証拠をもって主張しなければいけません。なかなか難しい作業になりますが、専門家に協力を求めるなどして、詐欺・脅迫の事実を示すよう努めることが大事です。
湘南なぎさ合同事務所(茅ヶ崎市、藤沢市、平塚市、鎌倉市)|【公正証書遺言の効力】他の遺言書にはない特徴と有効・無効を左右する要件とは